AIを現場に接続できる人が、いちばん希少になる

ChatGPTに質問できる、プロンプトが書ける、画像生成ができる。AIを扱える人は、もう珍しくない。

それなのに、現場では不思議なことが起きている。

AIを導入したのに、現場ではほとんど使われていない。そういう話を、わりとよく聞く。

自分が見てきた範囲でも、これは珍しい話ではない。問題はAIの性能でも、社員のリテラシーでもなく、「誰が・いつ・何のために使うか」が設計されていないことにあると思っている。そして、これから足りなくなるのは「AIを使える人」ではなく、この設計ができる人だと思っている。

ツールを入れることが目的になっている

AI導入がうまくいかないとき、自分が見聞きした範囲では似た流れをたどることが多い。

1. 「AI活用推進」が社内の命題になる

2. ChatGPTやCopilotのライセンスを購入する

3. 研修を1回やる

4. 現場に「使ってみてください」と伝える

5. 半年後、ほとんど使われていない

研修が悪かったわけでも、ツールが悪かったわけでもないことが多い。現場の業務フローに組み込む設計がなかっただけ、という場合が多いように見える。SaaSの導入と同じイメージでAIを入れようとすると、ここで詰まる。

SaaSが向く仕事と、AIが向く仕事は違う

会計ソフト、勤怠管理、請求書発行。これらはSaaSが得意な領域だ。定型業務を、既製品の流れに業務のほうを合わせることで解決できる。手順が決まっていて、誰がやっても同じ答えになる仕事ほどSaaSは強い。

手段は、業務の性質で分かれる。

– 手順が決まった定型処理は、SaaSが強い。会計仕訳、勤怠打刻、請求書発行、在庫管理

– 表計算で足りる集計は、Excelでいい。月次の件数集計、簡単な売上表

– 文脈や判断、暗黙知が絡む仕事は、AIが向くことが多い。社長の方針の文章化、提案内容の標準化、ヒアリングからの課題整理、問い合わせの分類、マニュアルからのFAQ作成

– そもそも流れが整理されていない業務は、何かを入れる前にまず業務整理から。二重入力、属人化、紙とExcelの混在

AIが向いている仕事に共通するのは、会社ごとの文脈・判断基準・暗黙知が絡んでいることだ。決まった正解がなく、その会社らしさを汲んで形にする。ここはAIが向いていることが多い。

大事なのはSaaSかAIかを対立させることではない。SaaSで済む業務、Excelで十分な業務、AIを使うべき業務、先に業務整理が必要な業務。この4つを見極めることが価値になる。そして、この見極めこそが、次に話す役割の仕事になる。

本当に足りないのは、つなぐ役割

経産省とIPAが策定した「デジタルスキル標準」は、DXを推進する人材を6つの類型に整理している。ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、データマネジメント、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの6つだ。

このうちビジネスアーキテクトは、ざっくり言えば、事業や業務の課題を整理してデジタルで解決する道筋を描く役割だと理解している。2026年4月に公表されたver.2.0では、この類型が「ビジネスアーキテクト」「ビジネスアナリスト」「プロダクトマネージャー」の3ロールへ再定義された。

つまり国が示す人材像でも、技術を作る役割と、それを事業や業務へつなぐ役割は、はっきり分けて置かれている。

AIに関わる役割は、大きく3つに分けられる。モデルを開発する人。ツールを操作できる人。現場業務にAIを組み込んで、定着させる人。3つ目が、これからいちばん希少になっていくと思っている。技術だけでも現場経験だけでもなく、両方を橋渡しする力が要るからだ。

必要なのはプログラミング力ではない。

– 現場観察力。どこが詰まっているかを見る

– 業務整理力。フローを可視化して整理する

– 言語化力。課題と解決策を関係者に伝える

– 定着支援力。使われ続ける仕組みを作る

これらは、営業やプロジェクト管理、現場改善の経験がある人ほど持っていることが多い。つまり、外から連れてこなくても社内にいることが多い。AIに詳しい人ではなく、現場の流れを説明できる人を1人立てるところから始めるのが現実的だと思っている。

自分でやってみて分かったこと

これは自分自身が、勤め先で試してきたことでもある。しかも、いま挙げた分け方を自分で外して失敗した。

ある資料づくりは、手順が決まった定型作業だった。さっきの分け方でいえばAI向きではない。それをAIに丸ごと任せてみたところ、出てくる形が毎回揺れて揃わない。手直しの時間を考えると、自分で組んだほうが速い場面すらあった。目的を決めずにAIにやらせると、AIを使っているつもりで、ただAIに振り回される。

そこでやり方を変えた。作らせるのではなく、目的と手順を自分で決めて、その通りに動く仕組みをAIと一緒に組む。会社のPCに入っている生成AIアシスタントと相談しながら、Excelのスクリプトを書いた。毎月手作業で作り直していた資料が、元データから一度で出るようになった。減ったのは、自分の作業で月に30分ほどだ。

定型処理は、AIに「やらせる」のではなく、AIと「仕組みを作る」ほうだった。

ただ、ここで終われば「自分が楽になった」で終わる。

いまは研修という形で、同じようにExcel作業をしている人たちに、AIアシスタントを使ってスクリプトを自分で作ってもらう、ということをやっている。全5回、週1回。資料と、各自が手を動かすワークシートを用意した。

自分が作ったものを配るのではない。作業の中身は人によって違うから、それぞれが自分の作業に合わせて作るほうが早い。自分の30分は小さいが、同じことを自分でできる人が増えれば、その分だけ広がるはずだ。

AIを現場に接続するというのは、たぶんこういうことだ。動くものを作って終わりではなく、他の人が自分の仕事に対して同じことをできる状態まで持っていく。作る力より、そのあとの手間のほうが実は重い。

研修は全5回のうち、まだ1回目が終わったところだ。そこまで持っていけるかは、これから分かる。

AIを現場でどう使うか、何から手をつけるか。そのあたりを一緒に整理するところから始めています。

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