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「ムダを削れ」で現場が動かない理由と、改善が続く会社が「残している」もの

改善が続かない、という話はよく聞く。

一度は現場に号令をかけて、ムダを洗い出して、手順書も作った。それでも半年後には元に戻っている。やる気の問題ではないし、能力の問題でもない。続く会社と続かない会社では、そもそも始め方が違う。

先日、名古屋のトヨタ産業技術記念館に行ってきた。目当ては、教科書で読んだトヨタ生産方式が実物としてどう置かれているのかを見ることだった。見終わって残ったのは、有名な「7つのムダ」の話ではなく、その手前にある条件の話だった。

この記事では、展示から自分が受け取ったことを、中小企業の現場に置き換えて書く。扱うのは、標準化の始め方、ムダの定義、改善を止めない条件の3つ。最後に、なぜトヨタのやり方だけが教科書に載ったのかという話をする。

出迎えるロボットと、21年前の乗り物

一番意外だったのは、織機でも生産ラインでもなく、ロボットだった。

人型のロボットがバイオリンを弾く実演があり、その近くに一人乗りの乗り物が置いてある。乗り物のほうは2005年、愛知万博に出したものだ。21年前になる。

いまヒューマノイドや自動運転がニュースになっているが、その原型はとっくに動いていた。話題になる前から作っていた会社があった、というだけの話ではある。ただ、目の前に実物があると受け取り方が変わる。

いま話題になっているものは、たいてい20年前に誰かが始めている。裏を返すと、今日始めていないものは20年後にも無い。

AI活用でも新規事業でも、成果が出るまでに時間がかかる仕事ほど、途中で止まる。止めない仕組みを持っている会社が、20年後に実物を並べられる。この記事の最後まで、この話が続いている。

「標準化」は一度で終わらない:量→質→量のサイクル

自動織機の展示は、発展の順番がわかるように並んでいる。人の手で織る段階から始まり、動力で織る段階、糸が切れたら自分で止まる自動織機、そしてコンピュータ制御の最新の織機へと続く。

並びを見ていて、自分はここに量 → 質 → 量のサイクルを読んだ。

質を完成させてから量を出したのではない。まず量が出る状態を作り、そこで見えた不良を潰して質を上げ、その質が次の量を可能にしている。展示にそう書いてあるわけではないので、あくまで自分の読み方だ。

これは標準化の始め方そのものだと思う。

中小企業で標準化が止まるとき、だいたい理由は同じで、全体を先に決めようとしている。正しい手順書を作ろうとして、例外の扱いで詰まり、決裁の順番で揉め、そのうち通常業務に押し戻されてマニュアルは8割で止まる。

トヨタの順番でいくなら、先に決めるのは正しい形ではない。動いた事実のほうを先に固定する。

明日できる一手:一番回数の多い作業をひとつ選んで、いま実際にやっているやり方をそのまま書き出す。理想の手順ではなく、現状の手順でいい。A4で1枚、30分もあれば形になる。書き出すと、人によって違う箇所が見える。そこが最初に決めるべき1点になる。

もうひとつ、記念館で説明されていて面白かったのが、ジャストインタイムの考え方の出どころだ。

「ジャスト・イン・タイム」という言葉自体は、1938年に完成した自動車の工場で提唱されている。ただ、その原型にあたる流れ作業は、その11年前、1927年の自動織機の組立ラインですでに実装されていた。チェーンコンベアを入れ、14あった工程を7に絞り込んでいる。新しい工場のために考え出した思想ではなく、それまでの現場でやってきたことに、後から名前が付いた。

新しい思想は、新規事業から生まれたのではなく、いまやっている現場から出てきている。次の柱を外に探しに行く前に、すでに持っている業務の中を見たほうが早いことがある。

「ムダ」を定義するのは人ではなく「目的」である

現場に「ムダを削れ」と言っても、たいてい動かない。

サボっているからではない。何がムダなのか、現場が判定できないからだ。この確認作業をやめていいのか、やめて何かあったとき誰が責任を取るのか。判定基準がないと、人は現状維持を選ぶ。それは合理的な判断だと思う。

記念館で腑に落ちたのは、判定していたのが人ではなく目的だったことだ。

国産の自動車を自分たちで開発して普及させる、という目的が、経営者から現場まで届いていた。展示を追う限り、そう見える。目的が共有されていれば、その目的に効かない動きはムダだと現場が自分で判定できる。誰かがムダの一覧表を配って回ったわけではない。

つまり、ムダの定義は目的の定義とセットになっている。目的を共有しないままムダ取りだけを号令にすると、現場には「コストを削れ」としか届かない。

もうひとつ、工場そのものの造りも効いていた。建物の配置が、工程の流れに沿っている。

ムダを見つけて潰す前に、起きにくい配置になっている。運搬や手待ちを現場の頑張りで減らすのではなく、レイアウトの段階で発生させないようにしている。

これは中小企業でも同じことができる。改善というと人の動き方を変える話になりがちだが、置き場所・並び順・受け渡しの回数を変えるほうが、たいてい早くて元に戻りにくい。

明日できる一手:改善のお願いをする前に、「うちはこれを何のためにやっているのか」を一文で書いて、会議の最初に置く。そのうえで、いま現場の頑張りで吸収している手間を1つ挙げて、置き場所か順番か担当の切り方で消せないかを検討する。人の努力で埋めている場所は、たいてい設計で埋められる。

教科書に載ったのではない。「やってきたこと」を残したから伝わった

改善を止めない条件として、展示から読み取れたのは4つだった。

1. 目的が全員に共有されている

2. 経営者が自分で動く

3. 議論より先にやってみる

4. 外からの声が入り続ける

効くのは4つ目だと思う。

顧客からのクレームや販売店からの声を拾って、改善に回している。内側の努力だけの改善は、いつかネタが尽きて止まる。外の不満が燃料として入り続けているから枯れない。展示にあった、海外の視察で自動車の普及を目の当たりにして事業の方向を変えたという話も、同じ筋に見えた。

3つ目も自分に刺さった。手順を決めた時点で満足して、1件目が出ないまま終わることが自分にもある。決めることと、やってみることは別の作業だ。

そのうえで、一番効いたのは展示ではなく建物そのものだった。

この記念館は、自動織機の工場の跡地に建っている。名古屋駅の隣、名鉄栄生駅から歩いて3分という場所の、かなり広い土地だ。売却するという選択もあり得たはずの土地を、残して、誰でも見に来られる形にしている。どういう判断だったのかは分からない。ただ外から見ると、短期の収益より自分たちの起点を残すほうを取ったように見える。

見学中、自分は最初「教科書に載って有名になったから、こうやって発信しているのか」と思っていた。帰り道で、順番が逆だと思い直した。

やってきたことを捨てずに残し、外から見える形にした。だから言葉が付いて、教科書に載った。記念館そのものが、この会社の最大の発信物になっている。

同じような工夫や改善をしている中小企業は、山ほどある。実際、現場を見せてもらうと、その会社なりのやり方がたいてい出てくる。違いは、優れているかどうかではなく、残っているかどうかだと思う。残っていないものは、社外にも、次に入ってくる人にも伝わらない。

あなたの現場は、積み重ねてきた知恵を残せていますか?

改善が続かない理由を3つ書いてきた。標準化を全体から始めている。ムダの判定基準を渡さないまま号令をかけている。外の声を改善につないでいない。

そして最後に残るのが、やったことが残っていない、という問題だ。

改善は、やった直後がいちばん価値が低い。数年経って、同じ問題が起きたとき、新しい人が入ってきたとき、外の人に自社を説明するときに効いてくる。残っていなければ、そのたびにゼロから考え直すことになる。

今日できる一手はひとつでいい。この1年でやった改善を3つ、思い出して1行ずつ書く。

何が困っていて、何を変えて、どうなったか。それだけでいい。フォーマットも要らないし、きれいにまとめなくていい。3行書いてみると、自分の会社が何を積み上げてきたのかが少し見える。それが手順書の材料にも、採用の説明にも、外への発信の材料にもなる。

トヨタは工場跡地を残した。同じ規模のことはできないが、1行ずつ残していくことなら今日からできる。

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