「あの人にしか分かりません」「あの人が休むと業務が止まります」。属人化の相談は、たいていこのような声から始まります。
そして次に出てくるのが、「では、マニュアルを作りましょう」という案です。作ってはみたものの、更新されないまま残っているという話も珍しくありません。
困っているのは、たいてい本人のほうだ
属人化の理由として「その担当者が仕事を抱え込んでいるからだ」と説明されることがありますが、あまり当てはまりません。抱え込んだというよりも、そうなる条件が揃っていたように見えることが多いです。
- その作業を任されたのが、そもそもその人ひとりだった
- 途中で例外が増えたが、増えたことを書き残す場所がなかった
- 手順が変わっても教える相手がいないため、頭の中にだけ残ったままだった
- 日々の業務が忙しく、人に教えるよりも自分でやってしまうほうが短時間で済む
この状態は、本人にとっても居心地が悪いものです。休みにくく、辞めにくく、周りから聞かれるたびに自分の手が止まります。属人化を「その人の問題」として扱うと、現場でいちばん困っている人を責めることになります。
だから、変えるのは人ではなく、そうなってしまった条件のほうです。
マニュアルを作っても効かないことがある
条件を変える第一歩として、やはりマニュアルの作成がよく挙がります。ただ、作っても現場で使われないことがあります。理由はひとつだと思っています。
書いてあるのが、問題なく進んだときの手順だけだからです。
現場で実際に手が止まるのは、その手順から外れたときです。数が合わない。いつもと違う頼まれ方をした。前例はあっても、例外だったかもしれない。属人化の中身は、こうした例外時の判断のほうに溜まっています。だから、問題なく進むときの手順を何ページ書いても、そこは埋まりません。
私自身にも覚えがあります。担当を引き継いだ後、毎月配っている資料をいつもどおり配りました。ところが、ある相手には配らない事情がありました。それを知っていたのは前任者だけで、引き継ぎ資料には載っていませんでした。
相手からは不審に思われ、前任者にまで連絡がいきました。あのときいちばんこたえたのは、前任者に迷惑をかけたことよりも、相手を惑わせてしまったことでした。配る手順は引き継がれていても、配らない理由だけが抜け落ちていました。
何を残すかの線引き
すべての業務を書き出そうとすると終わりが見えません。だから、何を残すかを決める必要があります。
このとき「重要なことを残そう」と考えると、うまく線が引けません。どれも重要に見えるからです。代わりに、次の基準で考えると決めやすくなります。
- あとからでは追えなくなるものを残す
- もう一度同じことをやるときに、必要になるものを残す
たとえば、判断そのものよりも「なぜその判断にしたのか」の理由のほうが、残す価値は高いです。数字そのものよりも「前回はいくつだったか」のほうが要ります。
重要度という基準で線を引くと、こうした情報が真っ先に抜け落ちます。しかも、抜け落ちたことには、しばらく誰も気づきません。
脱・属人化に向けて、明日からできること
大掛かりな整備の前に、明日からすぐできることがあります。
- その人しかやっていない作業を書き出す。人の名前ではなく、作業の名前で
- その中で、止まったら翌日に困るものに印をつける
- 印をつけた作業だけ、その人に「例外が起きたとき、いつもどうしているか」を聞いて書き留める
問題なく進むときの手順は、あとからでも書けます。先に押さえるのは例外のほうです。
属人化をいきなり全部なくす必要はありません。マニュアルを作る前に、その人しかやっていない作業を1つだけ外に出します。それだけでも、その担当者は休みを取りやすくなります。
どの作業から外に出していくかは、会社の人数や仕事の中身によって変わります。その人しかやっていない作業の書き出しから一緒に整理を始めるなら、入口として無料相談をご用意しています。

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